好きになっても、いいですか?
「偽物じゃないことは私がよくわかってる。これはお父さんの字でしょ?!」
「そうだったような、そうじゃないような……」
「また!そういうのはもういいから!」
長いことふざけ調子の克己に、麻子はぴしゃりと言うと、克己は、はいはい、という感じでメガネを外した。
そして、立てていたベッドの背に体を預け、思い出すように口を開く。
「早乙女さんが、わざわざここにきたんだよ」
「早乙女さんが?なんて?」
「大体わかっているんじゃないのか?ああ、でも誤解だけはしないでくれよ!父さんは、お前を売り飛ばしたわけじゃないんだから」
笑いながら軽く言う克己に、麻子はまだまだ知りたいことがたくさんあるといった顔をして椅子にかけると、克己と向き合って覗きこむ。
「よく聞く冷血な、社員はただの駒に過ぎない、っていう奴らではないってわかったから。だったら、逆に、麻子にもいい環境で、いい経験してほしいと思っただけ」