好きになっても、いいですか?

「社長!」
「なんだ?珍しいな、そんなに慌てて。土倉さんとの商談でミスでもしたか?」


いつも落ち着いている敦志が、緊迫した様子で駆けこんできたので、純一もさすがに驚いて手を止め敦志を凝視する。


「あ、芹沢さんを早退させました」
「早退?」
「お父様が――――」

(まさか、こんな急に――)


昨日会った時には安定していたように見えたのに、と純一は胸騒ぎを覚える。


「詳しい話は聞けませんでした。一刻を争うのかと……」
「わかった。とりあえず業務には差し支えないだろ」
「え?ああ、それは大丈夫です」
「……連絡を待つしかないな」


(どうして、必要とされる人間が――。
愛されている人間が、命の灯を消されてしまうのだろうか。

いや、まだ断定じゃない。
信じるしかない――――)


自分でも気づかずに、純一はただ心の中でそう祈った。



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