好きになっても、いいですか?


「お父さん……」


いつもと違う部屋に横たわっている父の手を握り、小さく呼んだ。
幸い入院中のことだったため、すぐに処置してもらうことが出来た克己は、とりあえずすぐに命に関わるということにはならずに済んだ。

しかし、再発は変わらずに付き纏う――。

その可能性を少しでも低くする手術。
医者にはやはりそれを勧められる。

一定の機械の規則音が淋しくも、どこかホッとさせた。


「諦めたくない。諦めない……」


早退してからずっと、麻子は父につきっきり。
未だに目を開けない父の傍に。

さすがにひっつきそうなくらいに喉が乾いた麻子は、足早に自動販売機に向かってコーヒーを一本手にすると、横の椅子に腰を掛けた。

時計を一度も見ていないが、辺りは真っ暗。
ナースステーションにも看護師が数人と、いつの間にか夜勤体制になるほどの時間になっていたらしい、と初めてそこで気が付いた。





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