WILL
序章 ぼくの存在理由。
「あいつ、ほんっと、泣き虫だったね。でも自分の思いどうりになったとたん、ケロリとして。私はあれは嘘泣きだったんじゃないかとふんでいる。」

あの子のことを語るのに、過去形しか使えないのが切ないね。

それでもキミは笑いながら話す。もういない、あの子との思い出を。

ぼくより年下。キミはつらいはずなのにいつも笑っていて。同じ病を患っているからこそ、キミが無理して笑っていることに気づいてた。

「晴、もういいよ。そんな苦しそうに笑わないで。」
「…ごめん。」

薄暗い病室のベッドの上、僕らは身を寄せ合った。どうか死神に見つかりませんようにと、小さくなって。

同室の死に晴もぼくも動揺していた。

『いつかピアニストになって、人を感動させるんだ。』

あの子の『いつか』はもう来ない。あの子の希望は一瞬で消え去り、遺された者には絶望が広がる。

感性が豊かな子だった。からかうとすぐ泣いた。弟みたいで可愛かった。

いまは骨壺の中の灰。

ぼくはキミの温かさをぎゅっと抱きしめささやいた。

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