ヒキコモリンコ
もう完全にストーリーを覚えてしまっているが、俺はページを追い続ける。
時に青年の喜びに励まされ、悲しみに共感する。
青年の挫折を叱り、勇気に憧れる。
ゆっくりと浸りながらページをめくっていると、結構時間を潰せるものだ。
締め切ったカーテンから滲み出す光が弱まってきた。そろそろ夕方だ。
トントントン……
今度は割りと落ち着いたペースで階段を上ってくる。
今度はなんだろう。
ただいま、か?
そんな事を考えていた俺に扉ごしに届いた言葉は、予想外のものだった。
「周作、出てきなさい。リビングに降りてきて。」
「…は?」
「いいから来なさい。早くね。」
お袋はそう言い残して降りて行った。