すべては君を救うため

―グォォォ…

まるで獰猛な狼が唸るかのように、空から音が聞こえた。

王国中の人々は暗黒に染まった空を見上げた。


「な…何あれ…!?」

真っ黒な雲からヌッと大きな影が現れた。

それは鬼と人間の中間のような形で、赤く光る目と大きく裂けた口が目立つ、おぞましい姿のものだった。

人々はただ、その影を見つめて立ちすくむだけ。


そんな時…影が一瞬にして城の中へと吸い込まれて、私たちの前から姿を消した。

「「何なんだあれは…」」

「オギャァァァァァ!!!!」

「「っ!?!?」」

誰もが口々に疑問を述べたのも束の間、悲痛な泣き声が王国中に響き渡った。

まさか…!?!?


「む、娘を返せバケモノ!!」

国王様がそう叫んだ時、1歳の誕生日を迎えたばかりの王女様があの影に抱かれていた。

「オギャァァァ!!オギャァァァ!!」

「「王女様っ…!!!!」」

王国中の誰もが叫んだ。

王国中の誰もが王女様を呼んだ。




「――…我が名はエビル」




突然、黒い影は口を開いて名を名乗った。

「小娘を返して欲しくば…この私を倒してみよ…!!」
何これ…どういう事!?


「「ウォォォォォッ!!」」

その時、王国の騎士たちが影に向かって行った。

そうよ、騎士たちならきっとやってくれる。

王女様がさらわれるなんてありえない!!


そう信じたけれど。



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