探偵事務所は休業中
夜の街を歩く。
腕には黒猫。
白いスーツによく映える。
猫は霞の腕を抜け出そうと、必死にもがいていた。
猫を宥めるように、霞が頭を撫でる。
猫は目を細め、小さく鳴いた。
「間一髪ってところッスね……」
もし自分が行かなければ、二つの命が失われていたのかもしれない。
そう思うと、少しゾッとする。
「にゃーご」
「知らない人に付いていったりしちゃダメッスよ?」
「まー」
「取り敢えず、依頼人に連絡しないと……」
霞はクロを抱き直し、急ぎ足で事務所を目指した。
腕の中のクロの鈴が鳴る。
「みゃー!」
どこからか、鳴き声が聞こえてきた。
霞は声の方に顔を向けた。
「……何してんスか?」
一気に彼の顔が歪む。
鳴き声を上げた動物――人物は、申し訳なさそうに縮こまった。
「お姉さんの事、拾ってくれる?」
「……」
ここは無視するべきかどうか。