探偵事務所は休業中
焔美はダンボールの中に入っていた。
蓋の部分には『私を拾ってください』の文字。
微妙な反応しか示さない霞に向かって、焔美はごそごそとあるものを取り出した。
「ごめんね……お姉さんが、ミルキー切らしてたのが悪かった」
「……」
「許してくれる?」
喧嘩の内容は、実に下らないものだった。
ミルキーを要求したときに、たまたま持ち合わせがなかった。
そんな些細な事で喧嘩をしてしまった。
いつまでも怒っているのは、大人げないと思う。
霞は小さくため息をついた。
「いいッスよ。僕にも非があります。ここはお互い様ってことで」
「本当!?じゃあ、また事務所に行っても……?」
「いいッスよ」
「やったー!」
焔美は飛び上がり、ダンボールに入ったまま霞に近付いてきた。
そんな彼女に向かって、彼は整った顔を歪ませる。
「ホム美さん、せめてダンボールから出てくれませんか?」
「え?何で?」
「普通に考えてくださいよ!それに――」
二人の様子を、空の月が優しく見守っていた。