探偵事務所は休業中

「じゃあ、カスミくんがご飯作ってる間に、お歌を歌って待ってよう!」

ソファに座る二人に笑いかけ、部屋の端に置いてある電子ピアノに電源を入れる。
直ぐ様拓実がソファから降り、ピアノの椅子に座る焔美の周りをちょろちょろと走った。

「なにうたうの?」

「たっくんは何がいい?」

逆に聞き返す。
彼は少し悩むような仕草を見せると、少し恥ずかしそうにはにかんだ。

「もりのくまさん……」

「うん!分かった!」

童謡を選ぶところがまた可愛い。
焔美は一つ頷き、ピアノを弾き始めた。

電子ピアノ独特の、軽い音が部屋に響く。
しかし、どこか深みがあるように感じられた。
彼女の指が鍵盤を踊る度、スピーカーから楽しそうに音符が飛び出す。

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