探偵事務所は休業中

「花形」

部屋を出た瞬間、後ろから呼び止められる。
この高くもなく低い女の声。

まさかと思いつつ、恵一はゆっくりと振り返った。

「あ、どうもです。冬沢先輩」

「アンタはいつから私の部下になったのよ」

口を尖らせながら、文句を垂れる。
壁に寄りかかり、腕を組んでいた彼女はツカツカと恵一の前に寄ってきた。

冬沢朋恵(ふゆさわ ともえ)。
別名"氷の女"。
直接関わったことは数回しかないが、彼女の事は色々と知っている。
長い髪と切れ長の目のせいで、どこか威圧感を感じるやり手の刑事だ。

「さっき、通報があったでしょ?」

「まぁ、ありましたよ」

「そう……」

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