ラプソディ・イン・×××
それから先生は、

腕まくりをし直して、

しばった本を「よいしょ」と

持ち上げた。



「手伝うよ」


オレは、

サックスケースを肩にかけ直し、

両手を差し出した。



本を受けとるとき、

花の香りがした。



「ごめんね、手伝ってもらっちゃって」


「いいよ。

女の人が力仕事してんの見たら、

ほっとけないっしょ」


この先生、

150あるかないかの

華奢な女だし。


ま、オレも太れねぇ体質だから

人のこと言えないけど。



「ありがとう。助かるわ」

本を運びながら先生は

オレを見上げて

にっこり微笑んだ。


下唇の端のちょっと下に

小さなホクロがある。


20代前半ってとこかな?

若い先生だ。


先生のシャツの胸ポケットに

名札がついていた。


ふうん、名前、

菫(スミレ)っていうんだ。


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