ラプソディ・イン・×××
「…いや、」


オレは首をすくめて否定した。


「コレは借りたものだから。

いったん返して、

正式に譲ってもらおうと思って」



いくら?と尋ねたら、

マスターは、

微笑んで静かに首を横に振った。



「奏くん、…もう、

このテナーサックスが

どういうものなのか、

わかってるんだろう?」



マスターの問いかけに、

首をコクンと縦に振った。


「…はい」



「このテナーサックスは、

もともと、君のものなんだよ」



マスターは、

オレに座るようにうながし、

マスターも

カウンターのイスに腰掛けた。


マスターと並んで座った。


ラムは、

気をきかせて席を外した。





「今年の3月だったかな…。

君のお父さんから

預かったんだ」



マスターは

カウンターの上で手を組み、

今までオレに黙っていたことを

打ち明け出した。



今年の3月といえば、

親父が、

医師から

手術ができない状態であると

告知を受けた頃だ。



きっとその時、

余命の告知も受けたのだろう。


< 156 / 242 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop