ラプソディ・イン・×××
告知を受けたその頃から

親父は、

身の回りの整理を始め、

このテナーサックスを

旧知のマスターに託したのだ。




「オーバーホールを施して、

いつか奏くんが

テナーに興味を持ったときに

渡して欲しい、と。

それまで

保管していて欲しいと、

頼まれたんだ」



親父は、オレに、

自分のテナーを

渡したかったのか…



「…てことは、

親父は、

オレにテナー吹きに

なってもらいたかったん

でしょうか?」



「アルトだけじゃなく、

テナーの良さも

知ってもらいたいと

思っていたようだね。

思いのほか、

君がテナーに

興味を持つのが早かった」



「親父は、

オレがテナーやってること、

知ってたんすか?」



「すぐに俺なんか

超えていくだろう。

って言ってたよ」


つい最近の話であるはずなのに、

懐かしそうな顔で

マスターは笑った。



…何だ、親父は知ってたのか。



ちょっと、ほっとした。



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