ラプソディ・イン・×××
バーの営業時間になり、

店を出た。



帰ろうと思って

駅に向かった。



駅前は、

帰宅する人達で混雑している。




人混みの中で、

佐野椎南母娘が二人そろって

どこかへ向かう姿を見かけた。



離れたところから

ちらっと見ただけだから、

はっきり見えたわけじゃないけど、

佐野椎南の母親は、

ケガでもしてんのか、

腕に包帯を巻いていた。



遠目からやり過ごして、

ぼんやり駅構内に向かって歩く。


駅構内出入口付近で

帰りを急ぐ人の流れを

微妙にせき止めながら、

立ち尽くしていた。



オレは出入口から

少し場所をずらして

サックスケースを開いた。




路上で吹くのは、

一年ぶりだ。




チラチラと

道行く人が

オレに目を向ける。



こんなとこで吹いて、

目立つことに、

今は関心が湧かなかった。


じゃあ、何で

こんなとこで吹いてんだろう

オレは。



…ただ吹きたかった。

無性に。



誰に聴いて欲しいわけでもなく。


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