ラプソディ・イン・×××
『…ただ、お父さんは、

君のことを、

うらやましいと言っていたよ』



さっき、マスターが言った。



親父は、

バーのマスターに、

オレのことを

“うらやましい”と

言ったんだそうだ。



そのあとに続けて、

親父が言っていたっていう、

オレへの想いとやらを

マスターは伝えてくれた。



【俺が、どれだけ

何年練習しても、

たどり着けなかったところに、

奏は、いともたやすく

たどり着いて、

簡単にやってみせるんだ。


ああ、才能とは残酷で、

…そしてなんて幸せな奴だ。


奏の才能は、

悔しくもあり、

そして誇りでもあった】



マスターから伝え聞いた

親父のセリフ。


マスターの声を

親父の声に変換して、

親父がオレに直接伝える姿を

思い描きながら、

頭の中でリピートした。



妄想の中の親父の声は、

嫌みがなく、

とても素直にオレをほめた。




親父は、

テナーじゃないから

オレのアルトサックスに

ケチつけるんだって

思ってたけど…



別にそうじゃなかった。



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