悪魔のようなアナタ(番外) ~with.Akari~
きっと別の人と待ち合わせをしているに違いない。
というかそうであってほしい。
祈る思いでぐぐっと頭を下げる灯里の横に、しかし悪魔は無情にもスタスタと歩み寄ってきた。
「なに? お前。こめつきバッタの真似でもしてるの?」
「み、水澤くん……」
灯里は恐る恐る顔を上げ、玲士の顔を見上げた。
玲士はいつもの氷のような視線で灯里を見下ろしている。
その唇にはうっすらと笑みが刻まれている。
灯里は背筋がぞぞっとするのを感じた。
そんな灯里に、玲士はいつもの低いテノールの声で言う。
「お前、そんなに昆虫が好きなの? ……この間のミノムシにしても。お前、リスペクトする対象、完全に間違ってるよ」
「アンタが勝手にそう言ってるだけでしょうが!?」
――――なんという言い草。
射殺しそうな視線で玲士を見上げる灯里の隣で、香川さんはにこやかに笑う。
「あらー、水澤君。早かったわね~」
香川さんは玲士に向かいの席を手で示す。
玲士はバッグを置き、スーツの上着を脱いで灯里の対面に座った。
灯里は呆然とそれを見ていた。