夢中パラダイス!?
いや、そんなことはないだろう。
そんな記憶など私の中にはないからだ。
なら、なぜだ?
あの人、のことが少し気になるような気がする。
でも、やっぱり気にしてはいけないような気もする。
私の心の中に、何かがある。
でもそれは見えてはいない。
そこに雲のような靄があるからだろう。
そんな靄などすぐに消えてしまいそうなのだが、なかなか消えてはくれないようで。
「なぁ姫乃。そろそろ僕は部屋に戻るよ。」
「え、あぁ。今、『僕』って言ったか?」
「うん。つい癖って感じで、俺って言いづらくて。たまに言うかもしれないけど、圧倒的に僕、の方が多いかもな。」
「そ、うか。」
「どうかしたか?」
「・・・いや、なんでもない。」
『僕』、その言葉に体が反応したのは確かだった。
香織が自分のことを僕というのは、普通のことなのか。
でもどことなく違和感を感じた。
前は自分のことを『俺』と言っていたような気がした。
でも、言われてみると香織が私に向かって『俺』と言ったことはあまりないかもしれない。
でも・・・
「じゃぁ、おやすみ、姫乃。」
「あ、あぁ。お休み、香織。」
香織が私の部屋から出ていく。
また一人の空間に取り残されてしまった。
でも、今はそれほど孤独ではなかった。
明日からは、きっと幸せな時間が始まる。
そんな気持ちで少しだけわくわくしていた。