夢中パラダイス!?
香織が言ったその言葉は、まっすぐ先にいるあの人に向けられて言っているようだった。
香織の目はあの人しか映っていないようだった・・・。
「まぁ。それはおめでとう、姫乃さん。何か月?」
「今日で2か月です。」
「すごいっ。まだまだ初々しいですね。」
「はい。えっと、お嬢様の名前は?」
「お嬢様だなんてやめてください。私は―――」
香織。
香織の目には今、何が映っていますか?
もしも、私でないなら、あの人ですか?それとも、今目の前にいる―――
「富士凛々香です。」
凛々香か?―――
私の中で一本の糸が切れた。
それは、今まで切れることを恐れていたいと。
でもそれはあっけなく切れてしまった。
この女、富士凛々香の名前を聞いた途端に。
「富士、凛々香・・・」
「え?なに?姫乃さん。」
「鬼城さん!」
その時呼ばれた私の苗字。
その声の主は、あの人。
「すみません。お二人の邪魔をしてしまった。凛々香、もう行こう。」
「え?あ、そうね。お二人の邪魔だったかしら。ごめんなさいね。」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ、お二人の大切な時間を。」
「じゃぁ、お互い様ということで。」
「そうですね。」
「じゃぁ、お先に失礼します。」
そして、あの二人はどこかへ行ってしまった。
でも、私の頭の中は、さっきの時間のまま止まっていた。