夢中パラダイス!?
その時、姫乃がある言葉を言った。
その言葉は僕の心に深い傷を負わせた。
「私、邪魔みたいだから、失礼しますね。」
邪魔って、そんなわけないだろ!
そう言ってやりたかった。
でも、できなかった。
姫乃は一人美術室へ向かって行ってしまった。
「ごめんなさいね。意地悪しちゃったかしら。」
「え?」
「薫くん、今日から私の執事をしてくれる?」
「・・・はい。そのつもりです。」
「半年間よろしくね。」
そんな笑顔、僕に向けないでください。
僕が見たいのは、姫乃の笑顔なんだ。
「・・・よろしくお願いします。」
「じゃぁ、放課後に校門のところで会いましょうね。」
そして、僕の前から遠ざかっていく凛々香お嬢様の背中を見ながら、改めて事の重大さに気づく。
これからの日々はきっと苦しいものになるだろう。
きっとそれは姫乃も同じ。
姫乃を苦しませるのは嫌だ。
ならどうすればいい?
そんなことを考えながら、今はとにかく姫乃の後を追うことにした。
姫乃が僕のところに来たとき、とても焦っていた。
これからの時間に必要不可欠なものを忘れたせいだろう。
『その、あの、あれを、その、忘れ・・・』
『だから、その・・・ないから、貸してほしいの!』
言葉もカタコトで、おそらく心の中では言いたいことがあるのにそれが恥ずかしい事であって余計に言えない、といったところだろう。
忘れもの、そういえば持っていなかったような気がする。
「絵筆だな。」