蠱惑【密フェチSS集】
「ねえ、どうして此処でしたがるの?」
汗が伝う首筋に君が舌を這わせた。あっとため息を吐き出して、鏡の中の自分が卑猥な顔をしている。
「鏡にうつる君のお尻がよく見えるからよ……」
「ああ……そんな理由?」
首に腕を回してしがみつくと、彼はお喋りを止めて私を貪る。
引き締まった美しくて柔軟性がある筋肉を痛いくらい強く打ち付けて、彼は私に夢中になる。
どんどん夢中になっていく彼を、私は見逃さないように鏡の中の光景を目に焼き付けた。
汗と汗が混じって、唾液と唾液が溶け合う。
どこまでが自分で、どこまでが彼なのかわからなくなるくらい私たちは何回も一つになって夜を過ごす。
そうしなきゃいられないくらいだから……
頭の中も、体も、心も……全部全部壊してくれればいい。
「最後なんて嫌だ……」
「男のくせに、弱音吐かないで」
甘えるように私の胸に顔をうずめた彼が愛しくて、苦しい。
「別れられないよ」
「でも、決めたこと。私も、もう決めたから……この部屋を出ていくから」
君を嫌いになる努力をした──────
君には未来がある。私と付き合っていると、彼の未来に泥を塗ってしまうから……足枷なんかになりたくない。
「好きだ……」
彼と繋がっていられるのも、今日で最後だから……その言葉で壊される。
君のこと、全然嫌いになれそうにない。
「一緒に逃げようよ……何もいらないから、全て捨てて一緒にいよう」
「そんなの……許さない。そんな君を好きでいられる自信はないの」
お願い、私に夢をみさせないで……彼を抱きしめて眠る最後の夜。可愛いのはお尻だけじゃないけれど……
さようなら。
─────君を嫌いになる努力をしたEND