声を聴かせて。



…意外。


わかりやすい人。




「…昨日のことなら、気にしないでください。

私もどうかしてました。

忘れてくれて構いませんから」


周りに聞こえないように、そっと声をひそめてそう言った。


すると彼はまた、顔をあげて私を見る。


その表情は、困っているようだった。



…そうよね。


困ってる。彼はきっと。



私にどう接すれば良いのかわからないのだ。








先週の金曜日。



職場の飲み会でのこと。


お酒があまり飲めない私は、皆が二次会に移動するところで抜けようとした。


「じゃ、俺も帰るわ」


私だけかと思いきや、彼も立ち上がりそう言った。


皆が彼を止めようとしたけれど、誰もそんな強くは言えなかった。



私は、この職場に来て初めて、彼と2人きりになった。


仕事中ですら、まともに話したことだってない。

いつも1番遠いデスクから、その険しい表情を覗き見るだけ。





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