声を聴かせて。
2人で並んで、駅まで歩く。
…彼が隣にいる。
そう思っただけで、心臓の音が早くなった。
「お前、家どこだっけ?」
「…あ、えと、黒川です。名城線です」
「ふーん、北区か」
別に興味なさそうに、彼はいつもの調子で言った。
低く、落ち着いた声。
お酒が入っても、そのトーンは変わらないんだ。
私も少しは飲めたら…
こんな時、お酒の力を借りて少しは大胆になれるかもしれないのに。
最初は、彼の声が好きだと思った。
低くて、年齢を重ねた落ち着いた響き。
部下には厳しくて、思ったことをハッキリ言って、
言葉をベールに包まない。
“全然ダメだ”とか、
“こんなんで上が納得すると思ってんのか”とか…
一日に3回は、必ず彼の罵声が飛ぶ。
だけど、褒めるときはちゃんと褒める。
“アメとムチ”の、ムチがちょっとだけ大袈裟な感じ。
きっと彼は、嘘でも優しくすることが苦手なタイプ。
不器用で、正直な人。
だから皆も、彼についていく。
「……お前さ」
気まずい空気を見兼ねたように、彼がボソリと言った。