好きな人は、天然タラシ。
「ねぇ、朝比奈さん」
「はい?」
福嶋さんはカバンとたくさんの資料が入った紙袋を置きながら、私に話し掛けてくる。
こうやって話し掛けられるのも、いつものこと。
仕事が詰まっていない日は、そのまま、『本日のお得意様』と題して笑える話をしてくれる。
笑わせてくれるのは楽しいからいいんだけど、問題があるんだ…。
それは、福嶋さんの口から不意に出る甘い言葉。
『かわいい』『好き』の二つの言葉は何度言われたかわからないくらい。
福嶋さんの言葉に対して、いちいち私の心臓はウサギのようにぴょんぴょんと跳ねてしまう。
福嶋さんとデスクが隣になって初めの頃は、言われ慣れない言葉のオンパレードに、むず痒い気持ちになりつつ浮かれていたものだけど。
その言葉を真に受けてはいけないことは、早々に知った。
…他の女子にも同じように言ってるのを聞いたから。
特に『かわいい』って言葉は口癖のように頻繁に出るんだ。
意識して言ってる訳ではないらしく、本人は無自覚。
そこが憎めないと言うか、いや…むしろ憎いのかもしれない。
これが福嶋さんを『天然タラシ』と呼ぶ理由。
福嶋さんを見上げると、福嶋さんがにこっと笑った。