間接的視線【密フェチSS】
Don't look at me, just peep at me...
Ⅰ
「美樹さん。香水つけてる?」
デート中、亮が訊いてきた。
「え、ダメだった?」
「いや……あ!ねえねえ」
言葉を濁す亮は、近くのショーウインドウで足を止めた。
振り返る彼と視線を合わせず、私はウインドウを見遣る。
「この指輪、綺麗だね」
亮が指をさして、ガラス越しに覗いてきた。今度は、ちゃんと視線を瞳に貼りつける私。
途端、背筋の下から上へ快感が這いのぼって。
「んっ……いい、ね」
体に力を入れ、誤魔化すように頷く。そうでもしないと、立ってられない。
私は、瞬きでちらつく視線の残像を必死に払った。
――覗かないで……今は。
思えば、亮と出会った2ヶ月前からだ。
珈琲店で働く25歳の私が、靴屋へ注文の品を届けに行ったとき。しゃがんで品定めしていた大学生の彼が、
『モカ、いい匂い』
縦長の鏡越しに寄越した上目使い。
ゾクッとした。
直接目を合わせるのとは違う感覚が癖になって、以来、彼の間接的視線で覗かれる度――。
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