ブルーブラック2

「ただいま··」


百合香が玄関を開けると室内は真っ暗でまだ智の姿は見えなかった。
リビングの間接照明だけをつけて鞄を床に置いた。


「···今日は遅いかな?」


百合香の記憶の中でも、智が江川と飲みに行くのは久しぶりだった。
下手に連絡をすれば気にして帰ってきてしまうかもしれない、と百合香は遠慮して先に休む支度をした。


全てを終えてソファに腰を掛けて智の帰りを少し待ってみる。


カチカチカチ、と響く秒針の音はやけに大きく聞こえてくる。


一人でぼやっとした照明の空間にいると、お酒も多少入っているせいかボーっとしてくる。

そして、うとうとと瞼が落ちてくるときに頭の中で今日の出来事が再生される。

椿と隼人と食事をしたこと。

隼人のことを智に未だ伝えられていなかったこと。

事務所前で親密そうにしていた智と美咲の姿を―――。




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