ブルーブラック2

5.誠意と嘘



「あ、おかえりー」


そう言って迎えてくれたのは坂谷だ。
百合香は事務所で仕事があるという富田を置いて一人売場に戻ってきた。


「なんか、楽しそうだね?」
「えっ?···坂谷さんは本当に鋭いですね」
「神野さんがわかりやすいだけだよ」
「···そうですか」
「で、何があったの?」


無意識に顔が綻んでいたのだと百合香は自粛して坂谷に今度のイベントの概要を簡単に説明した。
しかし興味を示し『楽しみだね』とは言ってくれはしたが、百合香程の反応はなかった。

もともと坂谷とは文具熱の温度差はあったので、こんなものか、と割り切り百合香がカウンターへ足を踏み入れた時だった。


「あれ?」


やりかけていた作業の続きを思い出すことは容易に出来た。
しかしその続きをしようとした時に、先程まで使っていた万年筆が見当たらない。



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