ブルーブラック2
(半日忙しかったからな··お客様への折り返しの電話のメモとかかな?)
今は誰もいないイベントスペースで百合香はなんの構えもなしにそのメモを開いて見る。
「··!!!」
そうして中身を見た瞬間に百合香はそのメモを一度閉じ、きょろきょろと周りを見回して再びメモを開いた。
(すっかり忘れてた···たまにこういうことをされるのを)
それはこの間の試作品の“群青”の色だった。
その色を今万年筆に入れているのはおそらくたった一人だけ。
【 今日は一緒に帰ろう 】
手短に書かれている一文。
いつもなら手放しで喜ぶ内容のメモだが今日はそうもいかなかった。
(でも··いつまでもこのままじゃダメだよね)
百合香は目に群青の文字を映らせて自分にそう言い聞かせた。
不思議と群青の色は心を落ち着かせてくれる。
そして智の変わらぬ文字もまた、いつも温かく感じる。