ブルーブラック2
「ああ、そうだ」
江川が椅子を元に戻しながら智に思い出したように言う。
「その··百合香ちゃんの万年筆って···」
「万年筆?“桜”のことか?」
「ああ。それって、百合香ちゃん、その…使ってるか?」
何を急に言い出すのかと目を丸くして智は江川を見上げて、少し間を置いて答えた。
「毎日使っている筈だけど」
「―――お前今日…いや、最近見たか?使ってるところ」
「?どうだったかな···」
江川は言わんとしてることがうまく伝わらなくて、もう一度事務所に誰もいないことを確認してから智との距離を少し詰めて言った。
「彼女―――生田さんが同じ“桜”を持ってるらしい」