ブルーブラック2
「神野さん、万年筆は持っているかい?書いてみるといい」
金山はただ普通のことを勧めただけだ。
しかし百合香はその一言で、忘れていた事実を思い出す。
(万年筆―――“桜”····)
そっと自分の胸ポケットに手を伸ばす。
そこには以前自らが金山のいる工場に出張に行った際に貰ったオーソドックスな黒い万年筆が金色のクリップを覗かせて輝いていた。
「あぁ。それ!使ってくれているんだね」
金山はその黒い万年筆を見て嬉しそうに微笑んだ。
「はい。なるべく毎日使うようには心がけています」
「ありがとう。そのペンも大喜びだ!よかったらついでにペン先も見て上げるよ」
金山がそう言って手を差し出した。
百合香は素直に好意に甘えてペンを金山の手に乗せる。
(“桜”もメンテナンスして貰いたかったな···)