ブルーブラック2

「神野さん、万年筆は持っているかい?書いてみるといい」


金山はただ普通のことを勧めただけだ。
しかし百合香はその一言で、忘れていた事実を思い出す。


(万年筆―――“桜”····)


そっと自分の胸ポケットに手を伸ばす。
そこには以前自らが金山のいる工場に出張に行った際に貰ったオーソドックスな黒い万年筆が金色のクリップを覗かせて輝いていた。


「あぁ。それ!使ってくれているんだね」


金山はその黒い万年筆を見て嬉しそうに微笑んだ。


「はい。なるべく毎日使うようには心がけています」
「ありがとう。そのペンも大喜びだ!よかったらついでにペン先も見て上げるよ」


金山がそう言って手を差し出した。
百合香は素直に好意に甘えてペンを金山の手に乗せる。


(“桜”もメンテナンスして貰いたかったな···)




< 197 / 388 >

この作品をシェア

pagetop