ブルーブラック2
「“字はその人の性格を表わす”―――と言ったものだけど、性格だけじゃなくて“気持ちも表れる”ものだから」
そう言われて百合香は一気に顔を赤くして俯いた。
知らず知らずのうちに自分のぐちゃぐちゃな感情がこうやって誰かに気付かれているのだと思うと恥ずかしさと、嫌悪感とで居た堪れなくなった。
「ああ。別に何があったかなんて聞かないよ」
「····すみません」
「謝ることだってない。でもきっとその万年筆も辛い思いをしてるだろうと思ってね」
「万年筆も···?」
百合香は自分の右手の中にある黒い万年筆と向き合った。
「神野さんも何かに苦しんでいるように、そのペンもいつものようにインクを滑らすことが出来なくてきっと心配しているよ。」
百合香は暫く見つめていたその万年筆を感じるように静かに目を閉じて息を吸った。
「力を抜いて、万年筆の重さに任せて。流れるように―――。
逆らうようにペンを走らせたって心の籠った文字は綴れない。
それは相手にも気持ちをうまく伝えられないことと同じだと私は思うんだ」