ブルーブラック2
第五章

1.奪うもの、奪われるもの



ガコン


百合香は売場で金山と別れて事務所に向かった。

事務所の扉の小さな曇りガラスからは柔らかい光が見えた。


(あ、まだ仕事してたんだ。よかった)


百合香はその灯りの主が智だと確信すると、先程仕上げたインクを入れた万年筆を一度見てドアを開けた。


「お疲れ様です」


一応、一社員としての挨拶。
もしかしたら誰かいるかもしれないから。


「ああ。終わった?」


パソコンから視線を外して百合香を見ながら智がそう答えた。



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