ブルーブラック2
「百合香こそ、どうして言ってくれなかった?
斉藤のこと。生田さんと俺がいるところを見てしまったこと。
病院のこと。
―――“桜”がなくなったこと」
なんにも言えない―――。
百合香はそう思って唇をぎゅっと噛んだ。
自分は悪くない。だけど、智も悪くない。
もっと言えば、お互いに悪かったのだ、と百合香は思う。
もっと、普段から上手に心を伝えられていれば···
百合香は自分のスカートを握りしめた手を見つめて俯いたまま。
左手にはめられているマリッジリングが涙でぼやけてきた。
「百合香」
その呼び声にビクリと体を弾ませた衝動で、滲んでいた涙の雫がぽたりとその手に落ちた。