ブルーブラック2
だけど、そのあとは百合香の想像しているようなひどいことは決して起きなかった。
ふわりと仄かに香る柑橘系の香りと一緒に、百合香は智の腕に包まれていた。
「こうやって、普段からケンカしていればよかった」
百合香の肩を抱いて智は言う。
その手は今までと何にもかわることがなくて、とても優しく温かい、自分の愛する人の手だ。
「していればよかった―――?」
(ケンカなのに···?)
「必要な場合だけ、ね」
百合香のか細い質問もちゃんと智の耳に届いて答えてくれる。
「俺は、言わないことで面倒なことから守れると思っていたから。それが間違いだった」