ブルーブラック2
金山が目をひいて百合香にそう言ったのは胸ポケットにある“桜”だった。
「あ···これは··」
「あぁ。そうだった。柳瀬くんが前に来た時に選んだやつかな、もしかして」
「····はい」
金山の鋭い勘に百合香は少し顔を赤らめて小さな声で頷いた。
確かにこの“桜”は一般的にはあまり男性が持つようなデザインではないから智が以前金山の元で万年筆を貰い受けた際に選ぶには違和感を感じるものだった筈だ。
「あの、これも、見て···くれますか?」
百合香は遠慮気味に“桜”を手に乗せて金山に差し出した。
「勿論!神野さんがお願いしなくても私からお願いして、見たかったくらいだ」
陽気に笑って金山はその“桜”を受け取って、早速キャップを外すとルーペでペン先を覗いていた。