ブルーブラック2
隼人は歩き始めた智を目で追いながら、ただただ黙っていた。
智は囲まれているショーケースを回るようにゆっくりと歩く。
視線は常にショーケースの中の万年筆に向けながら。
「斉藤がここに配属になるかわからない。けど、ああいう万年筆のプロの話を聞くのは結構為になるし楽しいよ」
ふと、隼人の脳裏に今朝の坂谷の言葉が蘇った。
“仕事にも、好きな人にも、真っ直ぐな人”
智の万年筆を見る目はどこかで見たことがある―――
隼人はそれはどこで見たのか自分の記憶を手繰り寄せてみると、遠くにいる百合香の姿を見て思い出す。
真摯に向き合うあの目。
万年筆というものを優しい顔で眺めるそれは、まさにこれまで見てきた百合香そのものだった。