ブルーブラック2

「今日まどかさんが来てました」
「え?あー··そうか。あいつも万年筆経験あるもんな」
「どんな色にしようか悩んでる時のまどかさん、すごく楽しそうだった」
「想像がつくよ」


飲酒した為に二人はタクシーに乗り込んでそんな話をしてマンションに向かっていた。


「まどかさん、また遊びに来てって、朱里ちゃんが私に逢いたがってるって言ってくれました」
「そう」
「“柳瀬くんもいいよ”って」
「とうとう俺はついでか」


くすくすと笑いながら百合香は智の顔を見た。
智もそんなふうに他愛ない話で楽しそうに笑う百合香の顔を優しい表情で見つめ返す。

そんな月明かりのような穏やかで優しい智の瞳に、百合香は今更照れてしまって頬を赤くした。


「百合香」


その呼び声にドキッとする。
大好きな、低くて甘い、耳に残る音―――。


< 272 / 388 >

この作品をシェア

pagetop