ブルーブラック2
「“お名前”…?何言ってるの?“うりかちゃん”って今自分で言ってたでしょう?」
「・・・・」
急に黙りこんだ朱里に一斉に視線を注ぐ。
そしてまどかが百合香に向かって言った。
「ごめんね。きっともう眠いのよ。引き止めてごめんなさい、柳瀬くんも。気を付けて」
「あ、はい!本当にごちそうさまでした」
最後に深く頭を下げて御礼を言って、まどかに抱かれている朱里にもう一度手を振って百合香は車へと乗り込んだ。
車が動き出しても江川一家はずっと見送ってくれていて、百合香もまた、ずっと窓からまどかにもたれ掛かる朱里が見えなくなるまで軽く手を振っていた。
「やっぱりもう眠たかったんですね」
「ああ。今頃もう寝てるんじゃないか?」
「ふふっ。そうかも」
夜だと言うのに窓の外では殆どの家が煌々と明かりを灯していて、皆同じように家族や友人たちと今日と言う日を楽しんでいるのだな、と百合香は思いながら薄ら笑顔を浮かべて眺めていた。