ブルーブラック2
「――もしもし」
百合香は電話の主を確認すると不思議そうな声で応答した。
「どうしたんですか?会社からなんて珍しいですね」
『ああ、驚かせてごめん』
それは休憩中であろう智からの電話だった。
「はい。ちょっと驚きました…」
『何か悪いことでもしてた?』
「してません!」
『・・ふっ、冗談。今夜少し帰り遅れてもいいか?』
一人きりのリビングで緊張していた百合香は、電話越しに聞こえる声で落ち着きを取り戻していた。
「構いませんけど…残業ですか?」
『いや…そっちの方がまだ早く帰れるかも』
「・・・ああ!」
『そう。江川がちょっと話あるっていうから…』
智の面倒くさそうな話し方は大抵江川に飲みに誘われた時だった。
そうは言っても結局は江川のことは信頼しているようだし、何より大切な同期社員であることは百合香にもわかっていた。
「ふふっ。いいですよ。ごゆっくり」
『すまない。なるべく早くに帰るけど』
百合香は快く承諾して電話を切った。