ブルーブラック2
「そうやって、真正面から俺に笑いかけてくれるの」
じっと見据えられて、少し伸びた髪を未だに手にしたままの智から百合香は目を逸らせなかった。
「そ…んな……」
「もちろん碧で大変なのはわかるけど、俺はちょっと淋しい」
パラッと百合香の髪が全て智の手から落ちた時に、百合香は一歩智に近づいた。そしてトン、と頭を智の胸に預ける。
「余裕がなくて、ごめんなさい…」
そんな百合香の頭を優しく撫でて智は言う。
「ふ…冗談。……いや、半分は本当かな」
智の胸の中から百合香は見上げると、やっぱり優しい瞳で自分を見つめていて、心が締め付けられる。
「でも、そのうちそれ、きっと私のセリフになるんですよ」
見上げた顔を少し下げて、百合香はぼそっと言った。
「え?」
「…だって、女の子だもん。絶対智さんの取り合いになる…」
そう言った百合香はかなり本気だったようで、智が顔を覗き込んでも複雑な表情をしたまま。
そんな百合香が可笑しくて、智は碧ごと、胸に引き寄せて強く抱きしめた。
そして、いつか聞いたような言葉が聞こえた。
「――そうさせたのは俺だけどね」