ブルーブラック2



季節はまだ冬。

百合香が妊娠判明してから少し経った。

その事実はまだ一部の人間にしか知らせて居なく、百合香も幸い悪阻は軽いようで、普通に仕事を続けていた。

強いて言えば、以前より眠気があるくらいで、おっとりとした百合香がそんな感じになっていても周りから気付かれることは今のところなかった。


『俺から報告してもいいけど』


はっきりと妊娠が確定してから智にそう言われたが…


『いえ。私から売場のみんなにはきちんと報告と、フォローのお願いしたいです』


百合香はそう言って断っていた。


(さすがに同じ職場の仲間だから、早めに報告しておかなきゃ)


百合香はそう思って、“今日言おう”としていながら昼休みになっていた。


(…なかなか自分の話ってし辛いなぁ。悪いことを言う訳じゃないはずなのに)


綾が先に売場に戻って一人になったテーブルで、そんなことを考えながら弁当を食べていると、足音が近づいてきた。


「百合香ちゃん。休憩まだ?」
「あ、はい。まだ半分くらいは」
「じゃ、一緒しちゃおう」
「ふふ、どうぞ」


この職場で「百合香ちゃん」と呼ぶ人間は一人しかいない。
妻の呼び方がすっかり移ってそう呼ぶのは江川だ。



< 364 / 388 >

この作品をシェア

pagetop