ブルーブラック2
「じゃあ、お先に」
「ああ。うん。またね」
それから百合香は江川に挨拶をして休憩室を出る。
事務所を通る時に、つい先ほど言っていた江川の話を思い出して智を探してみる。
(あ、いた)
智のデスクにその姿がない、と思ったが、すぐ近くの席の社員となにやら立ち話をしているようだった。
手にしている書類を2人で見ながら話を進めている姿は、いつもの“店長”の姿。
歩調を緩めながら、ギリギリまで智の様子を見ていた百合香は、ドアの前でぴたりと止まった。
会話は全て聞き取れないが、ところどころが耳に聞こえる。
その書類の話が終わったのか、和やかな雰囲気でいる智と社員を暫し見ていた。
「―――店長。休憩は?」
「ああ。まだ。ちょっと昼までにやることがあってね」
「じゃ、せめて一服どうですか」
「そうだな……あ」
休憩室へと足を向け掛けた社員の後ろについて歩こうとした智が、ポケットに手を添えて声を漏らした。
「店長?」
「―――悪い。一人で行って」
「あ、切らしてます? 銘柄違ってもいいならあげますよ」
「………」
社員に言われたことに、どう答えていいか智は困っている様子の時に、百合香は智と目が合ってしまった。
百合香は反射的に『マズイ』と思い、くるりと向きを変え掛けた時だった。
「ありがとう。でも、用事思い出したんだ」
「あ、そうですか? じゃあ僕行ってきますね」
明らかにその声は先程よりも聞こえやすい声で。
百合香はその“用事”が自分だとその声で理解する。