ブルーブラック2

「あ…ごめんなさ―――っ…!」


笑う百合香に素早く反応した智は、一瞬の隙をついて唇を重ねた。


「―――“クセ”がなかなか抜けないのは煙草だけじゃないみたいだ」
「…―――さ、智さっ!」
「煙草に甘えるのはもう辞めるって決めたことだ」
「…それは、助かります…けど」
「…でも暫くは“代わり”が必要かも」


そう都合のいいことを言いながら、智は百合香を拘束する。


「ちょ…誰か来ちゃいます…!」
「プレート“使用中”にしてきた」
「い、いつの間に…」
「――――今日だけ」


至近距離から聞こえるその声は、いつもの社内では“公私混同しない”という人物からはかなり遠ざかった智で。

再び重なる唇からは、気付けば煙草の味はしなかった。



「…さ。息抜きさせてもらったから、戻るかな」
「…公にしてないんですか? 禁煙…」
「…百合香の“報告”待ち」


智の言うことは、百合香が報告をする前に、今まで喫煙していた智が急に禁煙と触れまわれば百合香の身体の変化に気付かれる可能性があると言うことを指していた。

自分がもたもたしているせいでもあることを知った百合香は一言「ごめんなさい…」と謝った。


「―――本当はもっと前から煙草なんて必要なかったかも」
「何でですか?」
「…またされたいの?」


百合香の質問に呆れたように笑って、智は百合香の唇をそっとなぞる。
そして百合香に背を向けて商談室から出る直前に振り返りざまに一言言う。


「俺の精神安定剤はひとつあればいい」









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