えりあし
手には嫌な汗。
クッションを抱えていた腕に、無意識に力がこもる。
ソファに座るあたしから、彼の顔は見えない。
すぐそばでソファにもたれていた彼が動く。
それはただテーブルに置かれてるペットボトルを手にしただけで……。
あたしは硬直していた体でなんとか息をついた。
彼はあたしなんかお構いなしで、ゴクリと喉を鳴らしてソレを流し込む。
ボトルの蓋をキュッとしめて、その手があちこち跳ねてるえりあしをすいた。
「……」
「……なに、すんの」
驚いたように一瞬震えた彼が、振り返りもせずに言った。
「……わかんない」
わかんないよ……。
ただ……。
「あたしにも、触らせて……」
そのえりあしが、愛おしいと思えてしまったんだから。
彼の指ごと、その髪に触れたいと思ってしまったんだから。
「……はあ」
彼の呆れたようなため息。これを耳にするのは何度目だろう。
「なんだよ、俺……ずっと我慢してたのに」
「え?」
少しだけ不機嫌な彼の声が、いきなりあたしに覆いかぶさった。
「……遥のせいだから」
薄暗い部屋。テレビからは相変わらず甘美な声。
目の前には男の顔をした幼なじみ。
あたしは、その頬に触れて。
そっとえりあしに指を絡ませた。
幼なじみ、脱却。
END