裁き屋始末録
越すに越されぬ嘆き道
出会いは別れの始まり
第6閃!
「ちわ!
引越し屋ですー!
綿野(わたの)さーん!?」
朝から家の中の家具やら布団やらをガレージに出している家の前で、青い帽子と青い作業着の引越し業者が大声で挨拶した。
引越し屋、住江夢次だ。
やがてガレージから腰を叩きながら、中年の小太りな女性が現れた。
「あ、いらっしゃい。
悪いわねぇ、急に…
正岡さんから『知り合いに引越し屋が居る』って教えて頂いたもんでね」
正岡さんというのは…
パティシエの正岡朱乃。
「話は朱乃から伺ってます。
朱乃の店の常連さんなんですってね」
首にタオルを巻き、軍手をはめながら話す住江を横目で見ながら、女性は意味深な笑み…
「ね、お兄さん。
正岡さんの彼氏かなんか?
[朱乃]なんて下の名前で呼んじゃったりしてさ。
只の知り合いと違うんでしょ?
ね、ね、どういう関係よ!?」
(ち、これだからオバハンは…
アンタに関係無いだろ?)
ビイィィ…
住江は無意識に、ガムテープを肩幅まで引き出していた。
「ちょっと、お兄さん!
段ボールも用意してないのに、ガムテープを引き出してどうするの?」