裁き屋始末録
…もうすぐ太陽が夕日色に染まろうとしている。
普通、引越し業者というのは一人で仕事を請け負わない。
住江は会社の人件費を浮かせるために、簡単な引越し作業なら一人で片付けるようにしているのだ。
もちろん会社の許可を得て。
何だカンだで引越し作業も終わりかけた頃、
「ス・ミ・エ・さんっ」
仕事のメドがつき、ガレージの前で[ヤレヤレ]といった表情で帽子を取って、首のタオルの端で
額の汗を拭う住江に、
通り掛かった若い女性が
話し掛けた。
陽射しを背に、ニコヤカに手を振りながら立っていたのは、仕事帰りの朱乃だった。
「お疲れ様ぁ。
はい、差し入れよ」
朱乃が差し出したのは、朱乃の店のロゴがプリントされた箱。
気が強いイメージがある朱乃だが、実は気配り上手な子だ。
秋野と宿尾以外には。
「あぁ、ありがとな。
でも悪い、手が汚れてるんだ。
中に行って、この家のオバハンに渡して来てもらっていいか?」
「ん、分かった」
朱乃は小走りで玄関まで行くとインターホンを鳴らし、綿野と何か話した後で家の中に入って行った。
(いい子だよなぁ。
朱乃といい、香奈といい。
裁き屋仲間じゃ無かったら…)
そう思いかけた時、住江は汗を撒き散らすように首をブンブン振った。
(イカンイカン!
仕事に集中しようぜ)
最後の段ボール箱をトラックに乗せて、住江の仕事は片付いた。