裁き屋始末録
 
目的地の手前。


筑波の車では、

「あぁ、停めてくれ。
少し歩かないとね。
最近メタボリック症候群とか言われてるからな、運動しないと」

淡路が車を降り、ポテポテと歩いて行った。


車の中で筑波は、領収書の処分を始めた。

「これは交際費…
交際費、これも交際費…
税金は無尽蔵だね。
おっと、これは俺の交際費だ。
あとで先生のと一緒にまとめて………?」

どこからか…

聞こえてくるメロディーに、筑波は独り言をやめて聴き入った。

「へぇ、
こんな夜中にバイオリンを弾いてる奴が居るのか…」

よく聴くと、その曲は…

「葬送っ!?
夜中にこんな曲を練習してるのは…
どこのどいつだ!?」

筑波は車の窓を開け、辺りを見渡した。


ヒタ…


演奏が止まり、筑波の首にバイオリンの弓の弦が当てられた。

ただの弦では無い。

研ぎ澄まされた鋼線…
斬糸だ!


「ひっ…」

一瞬の恐怖に青ざめた筑波は、眼だけを弦を持つ者に向ける。

そこに居たのは、非情な眼差しで筑波を見つめる香奈…


ヒュン!


香奈は弓を、まるで演奏をするかのように華麗に引き、運転席の窓から身を乗り出す首の無い男にクルリと背を向け立ち去った…

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