背中と狼
背中のオオカミ
『叩き起こして』
そう言われたけど、その言葉とは裏腹にあたしはそれは慎重に扉を開けた。
隙間からクーラーのよく効いたひんやりした空気が、心地よく真夏の陽射しで火照った肌を撫でた。
…いや、火照りは今の状況に?
視線の先にはグーグー無防備に眠るロウ兄がいた。
いつもキリッと精悍な顔が閉じられた瞳のせいで子供みたいに見える。
たまの休みだもんね。疲れてんのかな?あたしなんて大して疲れとは無縁なまだまだ気楽な大学生だ。
だから今日もお母さんに言われて、田舎から送ってきたスイカなんぞを隣のこの家に届けにきたのだ。
ぶーぶー文句言ってごめんなさい。お母さん。
まさかのロウ兄の休みに来れるとは…ありがたすぎて今日はしっかり家の手伝いしちゃいますよ。
そろそろ近づいて行くと、身動いだ彼があたしにその背中を晒す。
「………」
階段でおばちゃんにかけられた冗談混じりの声が頭の中に蘇った。
『オオカミに襲われそうになったら叫ぶのよ』
…大丈夫だよ、おばちゃん。
“オオカミ”なのは狼兄(ロウ兄)じゃなくて……
…あたしなの。