背中と狼




触りたいなぁ…起きるかなぁ…



何て思いながら、ちょんと触るとピクリ…筋肉が動く。



でも起きない。



ニヤリ口角をあげたあたしはそろそろとベッドに片膝を乗せた。



狭いシングルのパイプベッドがギシ…と音を立てた。



ゆっくり…慎重に…



全ての動作に気をつかって、あたしはロウ兄の隣にぴったりくっついてじわじわ横たわる。



やんわり伝わる体温、心臓の音、微かなロウ兄の匂い…。



ちょっと影になる広い広い背中の後ろ…なんでこうも安心するの?



そういえば、子供の頃からお父さんの背中の後ろに引っ付いて寝るのが好きだったな。



広い背中で影になるそこに横になるとぐっすり眠れるような気がしてた。



でももう…お父さんじゃあ、ダメ。



だってあたしもう大人だし。…なんて言うんだろう…愛でれないと言いますか。



“色”が足りない。



だから、大人になった今はロウ兄の背中がいい。



精悍に整った顔も好きだけど、見えないこっちが堪らなく…イイ。



そろそろ手を伸ばして、剥き出しの背中にひたり…頬を寄せた。



ねぇ…あたし、なんでだかこうしてると…ロウ兄に守られてる気になるんだ。



あたし、単なる幼なじみだけど…大人なロウ兄にとったら妹みたいなだけの存在だろうけど。



でも



「いつか…爪痕とか、残してみたい…」



きめ細かな象牙色した肌のしなやかな筋肉の隆起を確かめるように指を這わせ、溜め息も溢してうっとり呟く。



起きないのをいいことに思う存分大好きな背中を堪能した。



そのうち満たされたような心が眠気を誘い出す。



ヤバいなぁ…と思いつつも、抗えない。



「……ふわぁ…」



満足な背中のオオカミ、あたしはあくびを一つするとゆっくりと目を閉じた……。








< 3 / 4 >

この作品をシェア

pagetop