その手に操られたい

マウスごと、包み込むようにそっと手を握られた。


――ゾクリ。


「今日、定時で上がれるか?」


耳元で囁く声。

私の意識は、自分の右手を覆っている大きな手だけに向けられている。


「……どうしてですか?」


周りに見えないように、彼が密やかに笑う。


「好きなのは、俺の手、だけ?」


試すように聞かれ、真意を確かめようと、顔を上げる。

交わった視線の先、彼の瞳の中で、揺らいでいる欲望。

もう一度、視線を彼の右手に落とす。


好きなのは、この手、だけ?


その答えは、この手が、どれくらい私を翻弄してくれるかで、決まるような気がする。

マウスを操るように、私の身体も操ってほしい。


「定時で、上がれます」


秘めた期待に胸を震わせながら、私は彼を見つめ返した。


【END】

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