ヘーゼルグリーンの林檎
動けなかった。
二階席のテラスへの階段を急いであがってる途中だった。
だけど顔をあげた瞬間そんなことはどうでもよくなった。
というよりは一瞬のうちに吹き飛んでしまった。
何をしようとしていたかも何を考えていたのかも。
まるで記憶をセーブされちゃったみたいに。
ただ、目の前の瞳に釘づけになった――。
「……綺麗」
ヘーゼルグリーンの瞳に魅入られて時間はとまったように永遠だった。
惚れ薬でも振りまくようにゆるやかに身をかわして、彼は階段を下っていく。